最終更新日: 2014/02/13 作成日: 2011/11/04

日本語で「円筒」と言うと,普通は中身が空洞になっているものだろう.きっと日本人ならそう思う.だって「筒」自体には中空であることが定義に含まれているのだし.

ところが「円筒」と辞書 ((辞書と言っても,デジタル大辞泉.国語辞典や広辞苑で調べてみるとまた違うかも?))で調べてみると,

  1. まるい筒。
  2. ⇒円柱2

とある.第一義は確かに中身が空洞らしい.けれど意味の二つ目には「円柱」の定義を参照しろとなっている.「円柱」の項を見てみるとこんなことが書いてある.

  1. まるい柱。
  2. 円周の一点を通り円と同一平面上にない直線が、円周上を平行移動するときにできる曲面と、その円およびそれと平行な面によって囲まれる立体。直円柱と斜円柱とがある。円筒。円壔(えんとう)。円柱体。

どうも2は数学的な定義らしい.数学では形が重要であって中身が詰まってるかどうかは気にしないということだろう ((確かに幾何学で中身が詰まってるかどうかなんて気にしたことがない.)).ということは,数学上は「円筒」も「円柱」も同義ということになる.

さらに調べてみると「円筒」に対応する英語は"cylinder"で「円柱」に対応する英語にも同じく"cylinder"があった ((「円柱」については他にも"column", “pillar"などがあったが.)).

どうも数学上は中空かどうか問題でなかった.だが物理学ではどうか.「円筒」状の導体に電流を流そうとすると,中空なのだから側面にしか電流は流れないだろうし,「円柱」導体に電流を流すなら側面だけでなくて内部にも電流が流れるだろう.「円筒」と「円柱」との違いは大きいはずだ.と想像されるが正確にはそうではない.「円筒状の導体」とは言うが,「円柱状の導体」とは言わない ((そういう表現を僕が見たことないだけかもしれないが.)).形状を表しているだけで,それ以上の意味合いはないということ.物理学は,現象を記述するのに数学を用いる,ということ ((ぶっちゃけると,これを根拠にするには非常に怪しい.数学しか用いないならば何の問題もないが,数学でない部分も物理学にはもちろんある.だから最終的に行き着くところは「そういうもんか」だろうと思う.)).

このことを認識した経緯は,電磁気学の問題に「円筒状の導体の内部に電流を流す」という表現があったのが発端だった.「円筒」という表現につられてしまうと円筒の側面にしか電流が流れないのだと思ってしまうが問題の真意とは違い,真意は文字通りの円筒の「内部」に電流が流れるというもの.「円筒状の導体だから中身は空っぽのはずで,電流なんて流れないんじゃないの?」という疑問が「はて,円筒とは何ぞや」という疑問を生んだのだった.