最終更新日: 2012/02/26 作成日: 2009/08/29

マナーに強制力はない

電車内でのマナーが確立されつつあるから、それに対して少し指摘しておきたい。

電車の中は「ケータイ電話はマナーモードにして通話は控える」という流れが、ある程度浸透してきたと思う。 これは車掌さんの弛まぬ努力や鉄道会社・公共広告機構の広報活動のおかげで、また何より電車に乗る人たちの心がけの結果だろう。 まずそれに対して、僕は評価していることを述べておく。

ただ、あまり過敏になりすぎることもよろしくないと指摘しておきたい。 つまり、電車に乗っている人それぞれに色々な事情があることを考慮に入れた上でのマナーであるべきではないか、ということ。

順を追って説明すると、こういう風になるかと思う。

マナーとして成り立つために

マナーというものは、徹底的な周知活動がまず必要で、生半可な活動では「守っている自分が馬鹿らしい」などと見なされて、マナーとして成り立てなくなってしまう。 違う言い方をするなら、マナーというのは多くの人が守るからこそのマナーなのだから、中途半端な数では秩序として成り立たないということ。 そのために車掌さんは、やむを得ず「マナーですからお守りください」と声をかけてきたのだ。

マナーがマナーであるために

徹底的な周知活動でマナーとして確立されたとき、次に必要なのは、「それはルールではない」と思うこと。 マナーを守らなかったときに罰則があるわけでもないということを忘れてはならないということでもある。 つまりマナーを守らない他人に対して「マナーを守れや、この不作法者が」と求めてはいけない。 敢えて守らない(または守れない)理由がある場合があるのだから──ない場合もあるだろうが。

この指摘は、中年の男性同士が電車内でのケータイ電話のマナーが原因で殴り合いの喧嘩にまで発展したというニュースが以前あったことを背景にしている。 そこまで徹底的にならなくてもいいんじゃないか、ということ。 元々がお互いに不快な思いをせずに済むためのマナーなのだから、マナーのために不快になっていては自分がしんどいだけだろう。

現段階では、もう十分に電車内でのマナーは確立されている(だろう)。 ごく稀に大声でくだらない電話をしている人がいるが、あれはあれで反面教師となるから、少しくらいいたほうがバランスがとれるはずだ。 (退っ引きならない)急ぎの電話が入ったとき、「電車の中だから」と言って電話をきる又は電話に出ないというのは、ケータイ電話の利用価値を非常に下げてしまっている。 そういう場合は、小さな声で通話することを許せるくらいの気持ちでいるべきだろう、マナーとしての「通話はご遠慮ください」なのだから。

以下 2012-02-26 追記: ここでは優先座席付近でケータイの電源をオフにするか否かについて触れなかった。というのも、ごくごく普通にケータイを使っていて本当にケータイの電波が心臓に植え込んだペースメーカに異常を来すかは怪しいと思ったから。ケータイが世に出てきた初期は確かにそんな事象が起こりえたかもしれないが、技術の進歩で解決できない問題ではないだろうと考えていた。それについて法務省がコメント していると最近になって知った。それによると

総務省は、平成12年度から電波の心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器への影響に関する調査を実施しています。該調査では、新たに導入された各種電波利用機器が「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」に適合しているかの検証を行っています。平成21年度においては、HSUPA方式(High Speed Uplink Packet Access方式)を用いて高速なデータ通信を行う携帯電話端末について調査した結果、心臓ペースメーカ等の植込み型医療機器の動作に影響を与えないことを確認しました。

とのこと。ただし、「第3世代携帯電話端末は8cmまで近づけないと影響しないという過去の調査」があるらしく、逆に言えば8cmまで近づけると影響がありえるということ。上記の報告は、あくまで普通に、電源をオンにしたケータイを持って優先座席付近にいる場合は問題がないことを示している。実際、心臓にペースメーカ等を埋め込んでいる本人には「携帯電話端末を植込み型医療機器の装着部位から22cm程度以上離すこと。また、混雑した場所では付近で携帯電話端末が使用されている可能性があるため、 十分に注意を払うこと」と「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針(平成17年8月策定、平成22年5月改訂)」(PDF) の3ページ目で指示されている。

電磁波を出す電子機器がものすごく近くにあると別の電子機器に影響が出てもおかしくはないと思うので、この法務省の報告を拡大解釈してしまわないようにしたい。そして各電鉄はもう少し「優先座席付近でのケータイの電源オフ」に対する姿勢を緩めてほしいと思う。その代わりに、ペースメーカを埋め込んだ人が電車を利用するときは乗務員にその旨を伝えて、電源オフを周りの人にお願いするようにした方が良いと思う。